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この村はどこかおかしい――それは俺がこの村に来たからという簡単な理由ではないようであった。店も家もほとんどが閉め切られている。幸い、飯屋は開いていたが、主人は怯えきった目をしながら、俺の注文を聞きにきた。
「……何にするかい?」
どうにも落ち着かないらしい。手を揉み、そわそわしている。
「一番手っ取り早いのでいい。それとコーヒーを」
「コーヒーね…」
「それから、一つ気になったんだが……」
厨房へ立ち去ろうとする主人を呼び止める。
「どうして家がこんなに閉まっているのだ?」
「それは……」
主人は言葉を濁してから、そっと俺に耳打ちした。
「今日は『儀式の日』なんですよ」
「儀式?」
「この地を支配している魔物様に生贄を差し出さねばならんのです。十年に一度、若い女の子をね……」
そう言って主人は目を伏せた。
「成程……」
「だからあなたさんも命が惜しかったら帰ったほうがいい、うん、そうしなさい」
そう言い終わると主人は厨房へ出向き、ライ麦パンを軽くあぶり始めた。
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