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「次の者、入りたまえ。」
低く、恐れすら覚える声に呼ばれ、一人の青年が執務室と書かれていたドアをくぐる。
「名前は」
立派な髭を蓄え豪華な儀礼用の軍服を着た老人は声質を変えず質問する。
「ハルベルト=ランスであります。」
見たところまだ若く、その黒い瞳と髪は西州にあってどこか東州の雰囲気を醸している。
「学科試験はどうだったかな」
老人と言って差し支えないその軍人は紙に目を落とし、次いでちらりとハルベルトを見る。
「はっ、難問ばかりでしたが解けた自信はあります。」
ハルベルトは自信を態度で表すように胸をはり、少し大きな声で返答した。
老人、いや、西州連盟ゲルツ領陸軍第二方面軍第1旅団第2師団第13大隊隊長ボルファルト・シュアー大佐は再度目だけを動かした。
「ふむ。…なるほど。」
大佐殿はスラスラと万年筆を動かし、スタンプを押した。
「さてと、面接を始めよう。」
大佐の質問にハルベルトは的確に応えていく。
「これにて面接を終了する。下がってよい。」
「はっ、失礼します。」
ハルベルトは立ち上がり一分の無駄も無い礼をして、部屋を後にした。
(…ハルベルト・ランスか。よい青年だな。…ランス?…いや。勘違いだろう。ランス家がわざわざ軍になど入るまい。ランス家が武家として活躍したなど何世紀昔の話か。)
ハルベルトは颯爽と廊下を歩いて行った。
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