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「警備員の手引きで園内に入り、機会を伺っていたようだ。」
相川は、撫然とする前田をよそに他人事のような口調で大石の知らない事実を話した。
「警備員の預金通帳から、飛龍比翼会に懐柔していたことは明白です。」
前田が、気を取り直し言葉を続けた。
「財団が会の事務所に行った時には、すでに全てが終わった後でした。」
「皆殺し……。会長は?」
大石が唸るように言うと、前田は首を振り、
「行方不明です。」
と、答えた。
大石の背中に一筋、冷たいものが流れた。
「死体を残さなかったのか。」
「はい。」
頷いた前田の顔も幾分青ざめていた。
「殺り口は『白い狼』らしくスマートとはとても言えないが、この三年で腕を上げたのは確かだろう。」
相川は、悪戯っ子の少年のように微笑んで、大石に空の盃に酒をねだった。
大石は、あくまでも平常心を装いながら、
「で、それでなぜ貴子さんを『白い狼』が、守ったと言えるんだ。」
そう言う言葉は、すでに身分を越え幼なじみの素に返っていた。
「組の机の上に、ご丁寧に貴子様を調査したファイルと一緒に、風間宛てのいつものラブレターが置いてありました。」
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