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第二章 夜明け前
相川たちが『黎明』で会っていた晩の夜が明ける頃、歌舞伎町の裏手を入った路地裏の居酒屋『夜明け前』に、仕事帰りの常連のホストたちが集まっていた。
五十を少し過ぎた店の主は、店いっぱいに入っているホストたちの注文も聞かずに、銘々に違う料理を作っていた。それを、和服のよく似合う四十半ばの主の女房が、これまた料理の行方を聞かずに銘々のホストの前に並べていた。
「紅、まどかのぶんだ。」 と、店の主は、心配気に奥を覗き込むようにして、女房に軽い献立の料理が乗ったアルミ製のトレーを渡した。
「あんた。」
と、紅は主の主人をたしなめるようにして店の奥ののれんに消えた。
主が小さく嘆息を吐くと、居並ぶホストたちの中でも極めてイケメンの青年が、グラスを持ってカウンターの主の前に立った。
「工藤さん。」
ホストは、空になったグラスを主に差し出すと、そこに並々とビールを注いだ。
「ありがとな、明。」
明は、いえいえと手だけを振って席に着いて仲間の談笑に加わった。
工藤は、手にしたグラスを眺めていたが、明に軽くグラスをて上げ、明が頷くとグイッと一気に飲み干した。
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