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「今夜……」
と、工藤は、のれんの奥をちらりと見て、
「まどか店に出たんだってな。」
と、明に問いかけた声は、常連のホストたちには聞こえたが、店の奥に座った一見の客の耳には聞こえぬほど小さな囁き声より、尚小さかった。
明は、何かのついでにカウンターに腰を下ろしたかのように、自然に工藤の前に向き合った。
「休ませてやりたかったんですが、間宮夫人が来店されたので、まどかが『ホワイト・ローズ』にいないことには…」
と、明も音に出さないような声で、申し訳なさそうに工藤に心なし頭を下げた。
「だから、明(まどかに)、そう飲んじゃ(仕事をしたら)身がもたないって、いつも注意しろって(言ったんだ)。」
工藤は、一見の客がカウンターをちらりと見た気配を察し、まどかへの危惧を言葉を変えて明に伝えた。
「すみません。心遣いは痛いほど……。」
と、明のろれつも怪しくなっていた。
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