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工藤は、明に一言二言小言を言って水をコップに満たして明の前に置いた。
明もさも美味そうにそれを飲み干すと、工藤はそこにまた水を注いで明の前に置いた。
一見の客は、工藤と明以外お通夜のように黙々と食事をする店内にいたたまれず、早々に店を出て行った。
しかし、それは一見の客の耳に聞こえていなかっただけのことで、ホストたちは盛んに今夜の自分の客の自慢話しを面白おかしく話していたのだった。
明が、クスリっと一見の客が店から遠のいてから吹き出すと、店内がドッと笑いの渦に包まれた。
「お前ら、いい加減にしろよ。これじゃ店の売り上げが伸びねぇだろうが。客がいる時くらい【影】の耳があっても普通に会話しろって何度言ったら判るんだ。」
そう言う工藤も言いながら笑っていた。
「賑やかだな。」
のれんを潜って、奥からセミロングの白髪を気だるそうに掻き揚げて、居並ぶホストの誰よりも、一見して高価だと判るオーダーメードのスーツ姿の少女が顔を出した。
少女の後ろに空の器の乗ったトレーを持った紅が、工藤にそっと微笑むと、皆の笑顔にほっとした温かみが加わった。
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