99.5階

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 満員電車に揺られて、いつもと同じようにヨレヨレになって駅に着く。見上げると永遠に続く憂鬱な日々を象徴するように、200階建ての高層ビルがそびえ立っている。  僕が働いている会社は、そのビルの100階にある。駅とビルを結ぶ動く歩道の銀色の手すりにしがみつきながら、僕は思い出す。最近まで、このあたりでホームレスの人々がたくさん暮らしていた。彼らの姿はいつのまにか消えた。 大都市は鉄とコンクリートとコンピューターによって完璧にデザインされていき、そして人間の体や心を、マシンやプログラムの隙間にきっちりとはめ込んでいくのだ。  ビルに到着。人の波にもまれながら90階~100階専用のエレベーターに乗る。上昇、そして停止。耳鳴りがする。99階までにすべての人々が降り、僕はその個室に偶然、ひとりぼっちになった。  つぎの階だ。ぼんやりと階数デジタル表示を見る。99。つぎは100。  いや、違う。そこに不思議な数字が現れた……99.5?
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