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さて、私が右手に持っているのは飲み薬の一種なのですが、少しグロテスクです。
マグマのようにグツグツと気泡を浮き出し、粘りのある紫色の液体でした。
私なら絶対に飲みません。この子には飲ませますけどね。
「……それがお薬ですか?」怪訝な顔で聞いてきます。
「はい」力強く頷きました。
顔を上げる際に脂気のない髪を耳に引っ掛けます。
この艶めかし仕草で美しさは三割増しです。
「息子は誰かに呪術をかけられたのですか?」
その質問に対して、私は無理矢理お薬を子供に飲ませながら応えました。
「誰、と言うのは間違いです」
「人の手によるものではない、という意味ですか?」
「そうですね。それに呪術ではありません」
男の子の血色は徐々に元気を取り戻していきます。これで一安心です。
息を吐いて肺に入った空気を取り替えながら椅子に座り込ます。
私の安堵の表情を察してご婦人は頭を下げましたが、犯人が気になっているようでした。
「エルフの仕業です」足を組み、ご婦人と男の子の目を交互に見ながら朗々と告げました。
「エルフ?」わざとらしく首を捻っています。
「一般の方には妖精と言ったほうが適切かも知れませんね」
「あの妖精ですか?」
「その妖精です」
「でも妖精は人に危害を与えませんよね?」
「それは人間の思い込みです。あどけない顔立ちに騙されているんですよね。知ってます? 美しいと得するんですよ。あなたには……分かりませんか」
おっと、これは失言でした。
慌てて口に手を当てます。もう遅いと分かっていてもやってしまうのはどうしてでしょうかねぇ。
ご婦人は一瞬眉間に皺を寄せましたが、すぐに元の表情を作りました。しかし皺の筋が薄らと残っています。年は取りたくないですね。
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