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「しかし、妖精たちの行いに悪意はありません。可愛い悪戯ですよ。まあ……死亡例はでていますけどね」
その真実にご婦人は身を震るわせましたが、それでも安心したような目付きで息子を優しく見守っていました。
「息子さんの三つ編みはエルフ編みといって妖精たちの悪戯です、もっとも目的も不明ですが。問題はエルフショットです」
「エルフショット?」
私の言葉を繰り返しました。ただし、その声色に私のような華やかさは感じられず、雑草のような声です。
「男の妖精は弓の名手です。その弓に射たれたら息子さんのように体は痺れ、意識はもうろうとしていき、しまいには死にいたります」
いつの間にかに私の口調はお医者さまのようになっていました。
のっています。ノリノリです。
ご婦人を脅すような調子で話していきます。
今の気分は凄腕の女医。
眼鏡も無いのに中指でクイッと眉間辺りの空気を押しました。
「ですが安心して下さい、峠は越えました。あとはご自宅で出来るだけ安静にしといてください。30分程度で目を覚ますでしょう」
「ありがとうございます」
ご婦人は何度も頭を下げました。お礼を言われて嫌な気分になることはありません。ですが医者として最後にやるべきことが残ってます。
「費用の件ですが、金貨四枚に銀貨六枚になります」
ご婦人は中肉中背の体を思いっきり反らして酷く驚いています。
確かに悪い意味で破格の値段です。詐欺と言われても否定はしません。
ですがこちらにとっても死活問題なのです。取れるとき取っておかないと明日のご飯は白米のみです。せめて三食お茶漬けが嬉しい次第。
「ず、随分お高いんですね」引きつった笑みで言っていました。
「息子さんの命はそんなに安いのですか?」
引き下がってはいけません。同情も禁忌です。
挑発するように言うのが吉だと思うんですよ私は。
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