第2話 「前触れ」

2/11
前へ
/110ページ
次へ
『コケッコッコー!』 ああ、ついに朝を迎えてしまったようです。 半覚醒状態の頭が完全なる覚醒状態になることを恐れ、体を縮めて布団を深く被りました。 『コケコッコー!』 ローソクのように白い布団は充分に温かく、更なる深い無意識の状態に私をいざないます。 この時間は幸せに、 『コケコッコー!』 ……包まれます。 『春眠暁を覚えず』とは良く言ったもので、事実、ずっと夜が続けば良いのにと思いますね。但し、私の場合は春に限らず春夏秋冬の話ですが。 とにかく、私にとって二度寝は重要な、 『コケコッコー!』 ……問題であって。それこそが、 『コケコッコー!』 ……今日のエネルギーの原動力なんですけど……。 ……とりあえず、アスランさんに言って夕飯をチキンにして貰い、それを楽しみとして一日の原動力にしましょうか。 厄介な鶏です。いつもいつも。 私にも限界があります。 目を見開いて布団を剥ぎ、強制的に覚醒状態に切り替えました。 ベッド横に置かれた小さめの下駄を履いて、一目散に窓際へ。 窓ガラスが壊れるほどの勢いで開くと、 『コケ?』 と、いまいち現状を把握しきれていない鶏と視線が重なりました。朝一の新鮮な空気を吸い込んだ後。 「うるさいです!」 怒りを含みに含んだ割れるような大声で鶏にイライラをぶつけました。 「クェー!」 私の声に驚いた鶏は飛べもしないのに羽をはばたかせ、背を向けながらの逃走。 「私にビビりましたか。チキンですね……まさに」 あの鶏は町外れの高台に住む、お爺さんの刺客です。お爺さんは飼っている数百匹の鶏を朝一番に街に放すのです。 お爺さんいわく『朝起きれん奴は堕落している証拠! 怠惰と漫然に朝を迎える貴様らは、己というアイデンティティーに疑問を抱かないのか!?』という、厄介な言い分を大義名分であると勘違いし、私たち街の人間を巻き込んでの事態にまで発展しました。 言うまでもなくお爺さんと街の人の確執は存在します、しかし、このお爺さん、なかなかの頑固者で反対の抗議に対しても無視を貫き通しているのでした。 さすがにこれは行き過ぎです。迷惑極まりないですし。 それが無ければ良い人なんですけどね。見知らぬ者を何泊も泊まるらせたり(もちろん厚意的に)。 私がお爺さんと会ったら絶対に止めさせますよ。
/110ページ

最初のコメントを投稿しよう!

133人が本棚に入れています
本棚に追加