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「おめえ、なんだよ…」
「何、話してるんだい。この忙しい時間に」
そう言った女将の目は、大将と私に、あの女性の話題には触れるなと語りかけていた。
「でも、おめぇよぉ…」
大将がそう言いかけると、
「今日は祭の次の日だろ!」
と女将が大将を諭す様に言った。
「あっ、いけねぇ…」
大将はバツの悪そうな顔をすると
「お客さん、すまないねぇ。すぐに朝飯持っていくから、部屋で待っててくれ」
と言い、板場に引っ込んだ。
私は新聞記者の勘で、何かあるな、と思ったが、この場ではそれ以上話を聞ける雰囲気でもなかったので、仕方なく部屋へ戻ることにした。
部屋に戻って暫くすると、女将が膳を持って入ってきた。
「はい、朝食です。ここに置いておきますよ」
「あのさぁ女将さん」
私は、女将の口からあの女性の事を少しでも聞き出せれば、大将からはいくらでも情報を引き出せると思っていたので、この機会とばかりに女将に話しかけた。
「さっきの、まぁちゃんって子何かあったの?」
「えっ?!」
女将の表情にはあからさまに嫌悪感が伺えた。
「…なんにもありませんよ。それよりさっさと食べてくださいな。祭が終わってのんびり出来る時期なのに…」
「いや、でも…」
「…失礼します」
女将はそう言うと、扉を閉めて出て行ってしまった。
(しまったなぁ…)
取材が終わった開放感と、持って生まれた好奇心の強さが、悪い形で現れた感じになってしまった。
(ま、仕方がないか…)
私はそう思うと、運ばれてきた朝食に向き合った。
いい塩加減の焼き魚を口にしつつ、炊きたての白飯を頬張りながら、頭の中であの「まぁちゃん」と呼ばれている女性の事を整理してみた。
(『お兄』と呼ぶ誰かを待っている。過去に何かあったらしい。そのせいで彼女は『可哀相』な事になっている。それは『お兄』と何か関係があるのか?)
とここまで考えたときに、女将の言葉を思い出した。
(『今日は祭の次の日だろ!』の言葉は何か関係があるのだろうか?『祭の次の日』になると何か今までと違う変化が起こるのだろうか?)
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