それも愛と呼べるなら

5/8
353人が本棚に入れています
本棚に追加
/105ページ
  「瑞希!」 突然呼ばれた自分の名前に、驚いて振り返ってしまった。 ──そこには、銀色の髪で青色の瞳、蒼過ぎるほどに透き通った肌の、端整な顔立ちの男の子が立っていた。 …前髪長いなぁ…目に入ったりして、痛くないのかしら。 「…瑞希…だろ?」 少し微笑んで、彼はもう一度あたしの名前を読ぶ。 人混みから抜け出した彼との距離はさっきよりも近くなって…なんだかドキドキした。 「はい…あたし、は…瑞希ですけど…」 こんな美男子があたしに何の用なのかと、少し怪訝に思いながら彼の青い目を見詰めた。 「……失礼ですけど──どこかでお会いしたこと、ありましたか?」 青色が懐かしく思えてきて…あたしはそう聞いた。 けれど、なんだか頭が痛む。 「…いえ、特には。」 彼は戸惑いの色を見せてから、苦笑してそう言った。 不思議に思っていると自分の手元に視線を感じて、ばっと左手を隠した。 ──なんでそんな悲しそうな目で、あたしを見るの? ──あれ?…何だかとってもいい匂いがする。 凄く嗅ぎ覚えのある。 確か、大好きだった気がするんだ。 香水かな。 考えれば考える程に…頭が、思い出すなと言う。 軽い頭痛に、あたしはこめかみの辺りを押さえた。 「あ…大丈夫ですか?」 「う…うん。大丈夫。」 あたしを支えようとする彼の腕から逃れる。 「…瑞希さん。僕の餌はいつまでもあなただよ。」 「…は?」 「いつまでも…あなた以外を所有したりしない。約束する。だから、瑞希さんも幸せになって欲しいけど…僕以外の餌になるのは止めてね。…じゃあねっ」 言いたいことだけ言って、彼は手を振って行ってしまった。 「…餌って…なに?」 遠ざかる、その背中を見詰めながら、あたしは左手をぎゅっと握り締めた。
/105ページ

最初のコメントを投稿しよう!