353人が本棚に入れています
本棚に追加
/105ページ
「瑞希!」
突然呼ばれた自分の名前に、驚いて振り返ってしまった。
──そこには、銀色の髪で青色の瞳、蒼過ぎるほどに透き通った肌の、端整な顔立ちの男の子が立っていた。
…前髪長いなぁ…目に入ったりして、痛くないのかしら。
「…瑞希…だろ?」
少し微笑んで、彼はもう一度あたしの名前を読ぶ。
人混みから抜け出した彼との距離はさっきよりも近くなって…なんだかドキドキした。
「はい…あたし、は…瑞希ですけど…」
こんな美男子があたしに何の用なのかと、少し怪訝に思いながら彼の青い目を見詰めた。
「……失礼ですけど──どこかでお会いしたこと、ありましたか?」
青色が懐かしく思えてきて…あたしはそう聞いた。
けれど、なんだか頭が痛む。
「…いえ、特には。」
彼は戸惑いの色を見せてから、苦笑してそう言った。
不思議に思っていると自分の手元に視線を感じて、ばっと左手を隠した。
──なんでそんな悲しそうな目で、あたしを見るの?
──あれ?…何だかとってもいい匂いがする。
凄く嗅ぎ覚えのある。
確か、大好きだった気がするんだ。
香水かな。
考えれば考える程に…頭が、思い出すなと言う。
軽い頭痛に、あたしはこめかみの辺りを押さえた。
「あ…大丈夫ですか?」
「う…うん。大丈夫。」
あたしを支えようとする彼の腕から逃れる。
「…瑞希さん。僕の餌はいつまでもあなただよ。」
「…は?」
「いつまでも…あなた以外を所有したりしない。約束する。だから、瑞希さんも幸せになって欲しいけど…僕以外の餌になるのは止めてね。…じゃあねっ」
言いたいことだけ言って、彼は手を振って行ってしまった。
「…餌って…なに?」
遠ざかる、その背中を見詰めながら、あたしは左手をぎゅっと握り締めた。
最初のコメントを投稿しよう!