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「マサトさ-ん。ペンないですか-」
「ありますけど…アラン、マキさんを放ったらかしにしとくのは良くありませんよ。どういう人かは把握してあるでしょう。」
ペンを差し出しながら、トップは言う。
俺はそれを受け取って、軽くお辞儀をした。
「ペン、ありがとう御座います。……マキに話すより、伝えたい大切な言葉があるから…俺はそれを吐き出してから、彼女のテーブル付きます。」
それじゃあ、と裏に引っ込む。
マサトさんの咎める声が聞こえたような聞こえなかったような。
……聞こえなかった。
ことにする。
「…あいつの新住所…知らないが…仕方ないな」
ふっとため息をついて、真っ白な紙にペンを走らせた。
宛先も、送り主の名前もない…大切な人への言葉を。
──それを紙飛行機型に折って、窓を開ける。
遠くまで届きそうな、いい風をしていた。
微笑んでから、ためらいもなく紙飛行機を空へ放った。
──月に向けて。
風に乗る紙飛行機を見詰めて、なんとなく解ってきた。
瑞希は
自分を守るために
記憶を失った。
俺を忘れてしまわないと
理子を忘れてしまわないと
この先がきっと辛くなるから。
瑞希が忘れたことを
…俺は一生…死ぬまで覚えている…。
それも愛と呼べるなら、俺は全て忘れずにいてやる。
それがお前の望みなら。
同じ空の下で
その心の奥底で
繋がっていると信じて。
俺は紙飛行機が消えた空を、そこに浮かぶ月を見上げた。
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