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『To Alain with love』
その日は一日中雨だった。
湿った空気が漂う。
細い水の線が空から落ちるのを、あたしは窓に引っ付いて見詰めていた。
こんな天気が一日中じゃ、洗濯物も干せない。
軽くため息をついたら、窓が白く曇った。
私の名前は、瑞希。吉原瑞希(ヨシハラミズキ)。普通の…大学生かも知れない。
ちょっと前までは高校生だった。…楽しかったなぁ…高校。好きな人もいたし…。
振り返って部屋を見渡す。散らかった状況を見ると、独り暮らしも楽じゃないってつくづく思う。
まだ昼間なのに、暗い。
あたしは着替えて、傘を手に取った。
「最悪!超濡れたんだけど!」
ジーンズの裾が重い。
自転車と擦れ違って、水を飛ばされたのだ。
それでなくたって、裾は雨に打たれて濡れていたのに、更なる追い討ちだ。
「大丈夫か-、瑞希」
「理子!大体あんたがこんな日に限って呼び出すから!」
「こんな日にジーンズ履いてくるからでしょ」
にやり、と理子は笑う。
今日は雨なのに、私はこの友達、理子に呼び出されていた。
こんな日に遊びに誘う奴は理子しか見たことがない。前々からの予定でいて、たまたま雨だった…というのは例外として。
「さ-、ホスクラでも行くか!」
輝かんばかりの笑顔で歩き出す理子の袖を掴む。
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