2/5
353人が本棚に入れています
本棚に追加
/105ページ
『To Alain with love』 その日は一日中雨だった。 湿った空気が漂う。 細い水の線が空から落ちるのを、あたしは窓に引っ付いて見詰めていた。 こんな天気が一日中じゃ、洗濯物も干せない。 軽くため息をついたら、窓が白く曇った。 私の名前は、瑞希。吉原瑞希(ヨシハラミズキ)。普通の…大学生かも知れない。 ちょっと前までは高校生だった。…楽しかったなぁ…高校。好きな人もいたし…。 振り返って部屋を見渡す。散らかった状況を見ると、独り暮らしも楽じゃないってつくづく思う。 まだ昼間なのに、暗い。 あたしは着替えて、傘を手に取った。 「最悪!超濡れたんだけど!」 ジーンズの裾が重い。 自転車と擦れ違って、水を飛ばされたのだ。 それでなくたって、裾は雨に打たれて濡れていたのに、更なる追い討ちだ。 「大丈夫か-、瑞希」 「理子!大体あんたがこんな日に限って呼び出すから!」 「こんな日にジーンズ履いてくるからでしょ」 にやり、と理子は笑う。 今日は雨なのに、私はこの友達、理子に呼び出されていた。 こんな日に遊びに誘う奴は理子しか見たことがない。前々からの予定でいて、たまたま雨だった…というのは例外として。 「さ-、ホスクラでも行くか!」 輝かんばかりの笑顔で歩き出す理子の袖を掴む。
/105ページ

最初のコメントを投稿しよう!