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「…んぅ」
小さく呻き声をあげると、気付いたように理子はあたしの口から手を放した。
「あは。ごめんごめん。口塞いじゃってたんだっけ」
くすくす笑いながら、理子はあたしを後ろから抱き締める。
「今までアランの所、泊まってたんだね。アランの何がいいの?──理子は嫌いだなぁ」
「…理子!居るなら居るって言ってよ!」
無性に腹が立って、あたしは出来る限り後ろを振り返りながら大声を出した。
──怒って言ったのに。
なのに、理子は、あたしの唇に、彼女の唇を軽く押しつけた。
「…ばか!!何してんのっ!百合じゃないんだから!」
「…嫌だなぁ…アランの味や匂いがする。むかつく。」
笑顔に似合わない低い声で理子は言う。
途端に視界がぐらついた。
訳が解らないまま、意識はあたしの意志を無視して遠のこうとする。
「さ-て。理子ちゃんのお食事タイムだよ」
明るく言いながら、あたしの身体を軽い物のように持ち上げる。
───視界が、ふっと暗くなった。
夢を見た。
幸せそうにしている、あたしと…あたしにもう恋はしないと決意させた人。
…誰だっけ。
もう、名前も顔も思い出せないや。モヤのような存在がふわふわしてる。というか、…そんな幸せそうな時期あったっけ?
…何で恋しないって思ったんだっけ。
ふわり漂う人は…あたしの知ってる人だったのかな?
──人間は、強いショックを与えられた時、それが我が身に害すると確信すると…自発的に忘れることがある。
その記憶が自分に支障をきたすと…そう判断したら。
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