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「やだ!止めてってば、理子!」
あたしの叫び声が高い夜空に消える。
──ビルの屋上。
「…ね-え、瑞希。もう一度聞くよ?理子に食べさせてくれる気な-い?」
きらびやかな街灯が、今は高さを強調しているようで怖い。
…状況を言うと、──理子のモノになることを拒む度に、あたしはじりじりと際に追い詰められていた。
もう…一歩大きく足を引いたら…落ちるだろう、と推測する。
「だって理子は言ったじゃん…!餌は所有物なんだって、他のには奪われないんだって!」
少し哀願を込めて、理子の赤い目をじっと見つめる。
しばらくの沈黙の後、理子は上唇をぺろりと舐めた。
「──うん。奪われないとは言ったけど…そんなの、個人の自粛なわけで。」
「…は?」
「だからぁ、力ずくで奪おうと思えば出来るんだよ。餌の奪い合いなんて珍しい事じゃないでしょ?」
いえ。
充分珍しいと思うんですが。
約20年生きてきて、そんな光景見たことないです。
「──所詮、力が強いか弱いかだよ。完全なる吸血鬼の理子ちゃんが、不完全なアランに劣るわけがないでしょ」
小首を傾げながら彼女は言う。
──つまり、餌というのは、………所有物と言えど、誰のモノと定められる訳ではない…ということ。
それは個人の人権として当たり前のことだけれど、あたしにとって…アランのもの、という唯一の糸が、柔く切れた気がした。
思えば
アランはあたしに
「好き」って
言ってくれたことない。
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