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理子は何も言えないあたしを指差して、囁くような低い声で…さらりと言った。
一瞬思考が停止する。
しばらくの沈黙の後、あたしは恐る恐る口を開いた。
「……あの」
「殺してしまえば奴との餌の契約など知ったことか!」
ガッと喉元を掴まれて、いつもの理子とは思えない力で持ち上げられた。
……片手で。
あたしの足は着くべき地を求めてばたついた。
けれど宙を蹴るばかりで――息が…苦しくなる…!
「恋だの愛だの騒ぐ人間共が…異質なる生物と交われるとでも言うのか?…フン…笑わせてくれる。」
まくしたてる理子を見つめて、あたしは違和感を感じた。
――ねえ理子
なんでそんな悲しそうな目をしてるの?
「所詮人間など…人間とでしかつるめないものを――」
「…理、子」
締め付けられた喉からは絞りだしたような声しか出てこなかったけれど、それでもあたしは理子の手を包んで――彼女の名前を呼んだ。
ぴくっと、理子が微かに動いた。
「――辛かっ、たんだ…ね」
「…お前に何が解る…ッ」
「解るよ…友達だも…」
突然空気が入ってきてむせた。
それと同時に固いコンクリートの上に崩れ落ちた。
上手く息が出来ない。
「瑞希」
胸に手を当てて蹲るあたしの横にしゃがみこんだ理子は、あたしの顔を覗きこんだ。
「理子の話…聞いてくれる?」
呼吸を調えながら、あたしは何度も頷いた。
「――昔、吸血鬼である身分を隠した女がいたの」
少し遠くを見つめて理子は呟いた。
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