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  「だから。人の話ちゃんと聞けって。」 「聞いてたよっ」 お箸を理子に向けながら言う高村さんに、頬を膨らませた。 高村さんはにやりと笑った後に、ご飯を口に運び始める。 高村さんの後ろの、朝の日差しが眩しくて、理子は目を細めた。 「高村さん、気になるじゃん。もう一回言って!」 促すと、高村さんは目を上げて理子を見た。 「結婚しようかって」 顔がにやけるのが分かった。 それを高村さんに見付かって笑われたから、慌てて両手で覆い隠した。 「だ…嬉しいけど…何で理子なんかと…だって…高村さんの周りには綺麗な人いっぱいだし…」 高村さんは、いわゆるホストだった。 昨日は気まぐれで仕事休んで、理子と一緒に寝てくれたんだ。 「――理由なんて、あんまりねェよ。辛い想いばっかしかさせれない俺だけど、理子と生きていきたいって無性に思うんだ。無理かもだけど、…いつまでも。」 言い終わった後に、照れ隠しみたいにお味噌汁をすする高村さんが何だか可愛くて、理子は小さく笑った。 「必要があれば、ホストだって辞めてやるさ。――ただ、俺からホスト取ったら何にも残んねェけど。」 高村さんは理子と目も合わさずにそう言う。 理子は嬉しかったんだよ。 こんな理子のために、自分の仕事まで投げてくれるって言ってくれる人と結婚出来ることが。 「そこまでしてくれなくたっていいよぉ。高村さんが、毎日理子の所へ帰って来てくれれば幸せ。」 「ふはっ。それじゃ今までと何も変わんねェじゃん。」 ――理子は、その小さな小さな幸せが欲しかったのでした。 結婚したから何かが変わるって訳じゃないくらいの、小さな小さな幸せが。
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