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「…カレー」
高村さんの可愛い答えに理子は笑って、財布を手に取った。
「じゃあ材料買って来るね。」
「お-。行ってらっしゃい」
いつもなら 一緒に行くって騒いで付いてくるのに、と一瞬違和感を覚えながら、理子は高村さんに向かって手を振り、ドアを開けた。
――これで、もう、高村さんの笑顔は見ることが出来なくなってしまった。
狭いアパートの玄関に派手に音を立てて、白い買い物袋が落ちた。
その拍子に玉ねぎが、一玉、ごろごろと転がって行った。
「…高村さん…」
夕日に染まる部屋の中に、理子が愛した人は居なかった。
―始めは、煙草でも買いに行ったんだろうかと思った。
…にしては、部屋の中が寂しすぎた。
ねぇ高村さん
あの時 理子、一瞬で
―――――解っちゃったんだよ。
玄関に、二人分の材料が転がる。
理子は高村さんの存在を示す物が何にもなくなった部屋の真ん中に、ぺたんと座り込んだ。
涙すら出ない。
高村さん
高村さん
理子、信じてたんだよ
高村さんが
理子を理子として見てくれること。
――人間なんて
何てちっぽけなんだ――
人間じゃなくたって
人間と同じように
理子には心があるんだよ
高村さん
戻ってきて
理子は、高村さんが忘れられなかった。
あの後、たくさんの人と関わってきたけれど…高村さんが理子の中から消えるような出来事はない。
――もう、あれから3年は経った頃だったかな。
理子は、高村さんを見つけたんだ。
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