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「――食べ殺しちゃった」
あたしの体がぴくんと跳ねた。
「だって、むかつくじゃん」
ねぇ?、とあたしに同意を求める理子に、あたしはそっと瞬きをして呟いた。
「そんなんじゃないくせに」
もう赤色じゃない理子の瞳が、少しだけうるんだ気がした。
「――好きなものを留めて置けないなら、いっそのこと、その命を理子の手で潰してしまおうと思った。」
あたしから目をそらして、理子は膝に顔を埋めた。
「高村さんが理子の中で生き続けるなら、それでいいと思ってた…。だけど、血まみれになったソレは、もう温かくなくて…憎しみしか残ってない、ただの命のイレモノだったんだ。」
微かに震えて見える理子の肩をそっと抱くと、ゆっくりと顔を上げた。
「――あんなに悲しい味は、あの時しか食べたことないよ」
涙こそ見せないものの、悲しみを湛えた目元はいつまでも変わらない。
――何だかアランの苦しかったことに似てるね。
共通点、いっぱいあるよ。
…言ったら嫌がられそうだから、敢えて口にはしないけどっ。
「理-子。あたしは理子が人間じゃないって知ったって、ずっと理子の側にいたいよ?餌にならなくたって、理子の側から離れたりしない。絶対だよ。」
永遠は誓えないけど、と付け足して、あたしは理子の頭に自分の頭をくっつけた。
「…瑞希。ごめんねだけどね、理子、瑞希のこと信じてなかったんだぁ。絶対いつかは突き放されて終わるんだ-って思ってた。」
車のクラクションが、遠くで響いて消えた。
風に揺られて、理子の匂いが漂う。
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