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「…あ、今…匂ったね」
すん、と鼻を鳴らす理子の目をそっと覗き見ると、理子は柔らかく微笑んだ。
「やっぱり理子は高村さんが大好きなの。今でも高村さんがよく付けてた香水は、理子の体にいつだって。」
――あたしの知ってる理子の匂いは、理子が知ってる高村さんの匂いなんだ。
「アランも…理子も…お互いに似てると思うから、嫌うんでしょ?」
聞いても、理子は黙ったままで、あたしは空に浮かぶ月を見上げた。
「――自分を見ているように感じてしまうくらい何かが似ている人は、その存在すら恐いよね。まるで、嫌な部分を肯定されてしまうような気がして。」
月が薄い雲と重なって、柔らかい光が空に広がった。
――理子
あたしは
いつもうるさくて
お節介で 心配性で
瑞希、瑞希って抱きついてくる
そんな理子が大好きなんだよ
餌にならなくたって
あたしと理子は友達なんだから
きっと大丈夫――…
「解ったような口利かないで」
「―――――え」
気付いたら、また喉元を掴まれて…宙に浮かされていた。
…またかよ!
「――ちょっ…」
「理子、瑞希のこと大好き。…ね、もし理子が高村さんを食べた時の、あの悲しい味…もう一度欲しいな-って言ったら…瑞希、どうする?」
背筋がひやりとする。
さっきと違うのは、あたしの目下には、ネオンと、その遥か先に、地面という、突き当たりがあることだった。
「ん…こと…思ってな…でしょ…!」
「どうかな-」
低い声で笑う理子の瞳は赤色だった。
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