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「瑞希は飛べないから、理子が手ェ離したら…死んじゃうねぇ?」
あたしをぶら下げたまま、理子は悠長に下を眺めた。
「め、て…てば」
絞りだすような声に、理子はにっこりと微笑んで、態々あたしと目を合わす。
「――瑞希、死んじゃったら理子が食べてあげるね」
抗議する間もなく、あたしの体は重力に引き付けられた。
色付かれた世界が、下から上へとめまぐるしく移っていく。
薄く笑った理子の顔がどんどん遠ざかってゆく。
―― あ-あ
どうしてこうなっちゃうんだろ。
どこからこじれちゃったのかなぁ
――死んじゃうのかな-
最期はアランに会いたかったな
愛桜って、呼んであげたかったな
いつか訪れる後頭部の痛みを待つように、あたしはゆっくりと目を閉じた。
「――死を恐怖として捉えない人間など、人間である資格がないとも思えるがな」
耳に響く、心地好い聞き慣れた低いトーンに、あたしは閉じたばかりの目を開いた。
大きな漆黒の翼が、あたしを抱えたアランとあたしを包みこんでいた。
「――恐いに決まってるじゃん」
語尾が涙声になるのにアランは笑う。
「その割には…死んでもよさそうな顔をしていた。」
「だって…死んじゃうと思ったんだもん。最期にアランに会えたら良かったと思っちゃったくらい、もう駄目かと思ったんだもん…」
微笑ってあたしの頭を撫でるアランに、なんだか安心して涙が出た。
翼がはためいて、あたしがついさっき居た場所へと連れていく。
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