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そろりと目を開けたら、赤い液体が飛び散っていた。
そして人形のように倒れている理子が、あたしの目に入った。
さぁっ、と血の気が引く。
「理子」
そっと呼び掛けると、彼女の身体がぴくりと微かに動いた気がして、あたしは理子に近寄った。
「理子…嫌だ…」
「──全く。解ってないんだか、意図的に外したんだか。心臓、壊さなきゃ理子は死なないのに。」
血だらけの唇を拭って、理子はおかしそうに笑う。
──生きてる
「ちょ…死んじゃったかと思ったじゃん…」
「や、普通なら死ぬでしょ。何かアランの奴ね、心臓以外の臓器破裂させたみたいで」
顔をしかめる理子の周りには、血が散乱している。
普通の人間であれば確実に死に陥っているだろう出血量に、あたしは吐き気を覚えた。
「理子、死んじゃっていいと思ったんだ。だって、長い間生きてきたけど、理子は沢山の人を傷つけてきた。償いは理子の死だよ。──高村さんの命は理子の中。理子が死ねば、高村さんもやっと死ぬことが出来るんだよ」
高村さん、の言葉の度に理子は愛おしそうに目を細めた。
「ねぇ瑞希。理子、瑞希も傷つけちゃったんだよね。だけど、理子は瑞希のこと大好きだった。理子が吸血鬼だって知ったって、いつも通り理子として接してくれたから。」
微笑んで、見透かすような強いまなざしであたしの目の奥を見詰めた。
「──ごめんね」
その言葉が最期の合図だったように、言い終わって直ぐに理子の身体が反れた。
びくん、と跳ねた理子は静かに元の体勢に戻って…その唇には新しい血が付着していた。
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