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夜が来た。
人間が高く日が昇ると言うように、俺に言わせれば高く月が昇る。
──思えば、起きた時に独りだというのは、だいぶ久しい。
いつでも起きたら、ベッドの横や窓際に…、掃除をするためにあちこち動き回ったり…せわしく落ち着かない──瑞希が居たんだった。
立てた膝に額をついて蹲る。
こんな夜、今日に始まったわけじゃない。
どれくらい瑞希に逢っていないだろうか。
ふと、喉が乾いていることに気付いた。
そう言えば2、3日食べていない。──あいつが来ないから。
携帯のアドレス帳を開いて、瑞希を選ぼうとするも、そこで急に…脳裏に、携帯を投げて叫ぶ瑞希の姿が過ぎる。
「………っくそ」
今、何も出来ない自分が不甲斐ない。
守るために何でもする……嘘じゃない。けれど、近寄らずして、一体何をどうしろと。
手の平が蒼白く光っていた。
──俺は、この手で理子を殺したのだ。
その行動が、俺と瑞希を切り裂いた。
か細い糸は、あまりに柔くて…つなぎ止める力など、大してなかったのかも知れない。
「──所詮、接吻程度でしか結ばれていなかったものを」
気休めの苦笑もすぐ消えた。
──いい加減、認めろよ。
今まで一度も言葉にしたことがないのだから。
伝えないまま、何もかも失ったのだから。
「……す」
やっぱり言えないと首を振ってから、俺はベッドから下りて…クローゼットを開けた。
「……?……ああ…瑞希がクリーニング出しに…」
瑞希が傍に居たことを思い出す度に緩む口元を、ぱっと多い隠す。
極度に少ないスーツの中から一枚を適当に手に取った。
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