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納豆のオーケストラ
僕は幸せ者なんだ。
その生涯の大半を、楽しく過ごすことができるから。
最初はちょっとつまらない。僕という会場に彼女たちが入場すると、暫く冷たい世界に放置される。
僕にとっては寒い世界だが、彼女たちには適温のようだ。直ぐに景気のいい雑談会が始まる。
その話がつまらない。彼女たちの会話には脈絡がなく、どうしても僕は話に加わることができない。どの世界の女性もこの点だけは共通しているようだ。
そろそろかと、彼女たちの行動が変化しだした。一人、また一人と独唱を始める。
おもむろに冷たい世界から解き放たれ、指揮者が封を切った瞬間から、その演奏は日の目をみる。
僕の楽しみが、始まる。
まずは彼女たちによる合唱だ。その歌声は素材の力を独特のクセで表現し、魅了する。
指揮者を十分に引きつけたところで、黒服の背広を着た男性たちの登場だ。男女混合になると、歌声はとても澄んだものに変わり、会場全体のうま味が増す。
最後に、黄色の楽器が全員に手渡されると、その音響は刺激を含む合奏となり、紡がれた一つ一つの音色は全てを満たしていく。
そして指揮者が箸を下ろすと、会場からみんないなくなる。
僕は一人、残される。
でも、それでも構わない。
くずかごの中はさみしいけれど、少し我慢していれば再びみんなに出会うことができる。
形ある限り、僕は幸せ者なんだ。
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