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アパートのドアを開けようとして、ガチャガチャと音を立てて鍵を差し込んでから、少し考えた私は開けるのをやめた。
そして、胸の底から溢れてくる、高揚感に喜々とした笑いを噛み殺した。
それでも、口元に出てくる笑みを隠すように俯いた。
彼は一度だって、この部屋に来たことはない。
2人の逢瀬はいつだってホテルの部屋だった。
私はその部屋のテラスから、群青と茜の混ざるすみれ色の空を何度も見てきたのだから…
「どうしたの?早く入っておいでよ?」
鍵を開けようとしていたドアが開き、男が声をかけた。
「うん。」
私はそう返事をして、外を振り返り、勝ち誇ったような気持ちで空を見上げる。
今、頭上の空は同じすみれ色をしていた。
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