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グンという軽い衝撃の後で、ゆっくりと車のスピードが落ち、交差点で停車した。
彼のブレーキはいつもゆっくり静かにかけられる。
別れたくないな…
そう言いたくなった自分がおかしくて、つい、笑いが漏れた。
「どうしたの?」
顔を前に向けたまま、彼は聞いた。
「…もう少し、話したいと思ってしまったの。」
私も彼を見ずに、笑ってそう答えた。
やや間があってから、彼が聞いた。
「ここ、曲がる?」
曲がらずに、真っ直ぐ…それは、私達がよく走った回り道だった。
「ううん、いい。このまま送って。」
信号が青に変わり、車が走り出す。
彼の手の中から、ハンドルの擦れる乾いた音が聴こえた。
彼は何も言わない。
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