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彼は一緒にいると、私の言いなりだった。
私がどこかへ行きたいと言えば、どこにでも連れて行ってくれたし、帰りたいと言えば引き留めなかった。
ただ、会うときはいつも彼からの連絡を待たなければいけなかった。
疑いを抱かなかったわけじゃない・・・。
けれど、それ以上のことを望めば、彼に守るべきものがあろうとなかろうと、私達の時間は脆く崩れてしまう気がして怖かったのだ。
「着くよ。」
そう言って、彼はまた優しくブレーキを掛けた。
「ねぇ、寄っていく?」
ハンドブレーキに手をかける彼に手を重ね、顔をそっと見上げた。
目が合うと彼が笑った。
「今日は止しておくよ。また会おう。」
宥めるように、彼がそっと髪に触れる。
「わかった。」
少し拗ねたように返事をして、車を降りた。
振り返ると、彼の困ったような顔が見えた。
大丈夫よ。怒ってないわ…
そう伝えるつもりで、笑顔で手を振る。
彼の目から緊張が和らぐのがわかった。
今までの余韻を残すように、ゆっくりと車が走り去る。
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