すみれの空

4/4
前へ
/4ページ
次へ
アパートのドアを開けようとして、ガチャガチャと音を立てて鍵を差し込んでから、少し考えた私は開けるのをやめた。 そして、胸の底から溢れてくる、高揚感に喜々とした笑いを噛み殺した。 それでも、口元に出てくる笑みを隠すように俯いた。 彼は一度だって、この部屋に来たことはない。 2人の逢瀬はいつだってホテルの部屋だった。 私はその部屋のテラスから、群青と茜の混ざるすみれ色の空を何度も見てきたのだから… 「どうしたの?早く入っておいでよ?」 鍵を開けようとしていたドアが開き、男が声をかけた。 「うん。」 私はそう返事をして、外を振り返り、勝ち誇ったような気持ちで空を見上げる。 今、頭上の空は同じすみれ色をしていた。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加