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薄紅色の小さな膨らみをつけた
桜の木々の間を抜けると、
揺れる蒼が現れた。
広く、見た目によらず底が深いそれは、
普段と変わらず
穏やかに、淡々と、
水面に縞模様を作っている。
最近、
子供が溺れかけたという出来事が
あったからか、
以前は
響き渡っていた
無邪気な声は、
人足が途絶えたとともに
パタリと聞こえなくなってしまっていた。
そんな風景に
ちょっとした寂しさを感じながらも
久しぶりに訪れたこの場の懐かしさに
微笑を浮かべていた俺は、
視界に映った、
何か、白い布のようなものを不思議に思い
目をとめた。
それは、
浅瀬の、背の高い雑草の隙間から
少しだけ顔をのぞかせている。
塵かなにか、かと
目を細めて何気なく見ていた俺は、
次の瞬間、
眉間にしわを寄せ、
弾けたように駆け出した。
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