溶ける氷の心

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夜10時にバイト終了。 基本的に厨房よりも ウエイターの方が 先に仕事を終える。 向かいのコンビニで 香奈とあたしは 立ち読みをするフリをして 広部翔太を待ち伏せていた。 あたしは正直早く帰って さっさと寝たかったのだが はしゃぐ香奈を前に 言い出すことが出来なかった。 10時半を過ぎた頃 ようやく厨房の男3人が 裏口から出てきた。 中年のシェフ兼店長。 1歳上の大学生、鳴海さん。 そして、広部翔太。 店長は車へ向かい 鳴海さんと広部翔太は 何やら談笑しながら 歩き始めた。 「チャーンス!!」 香奈は怪訝そうな顔の コンビニ店員などお構いなしに あたしの手を引いて コンビニを飛び出した。 「鳴海さん!!」 香奈がそう呼び止めると 前を歩く男達が振り向いた。 「おぉ、香奈ちゃん。真由ちゃん。どーした?」 鳴海さんは大学1年生。 1歳しか違わないのだが 整った顔立ちと 細身の黒ジーンズのせいか 大人びて見える。 また笑顔もさわやかだ。 「あのですね、来週の土曜日に広部君の歓迎会がしたいんです。…といっても本人には予定を聞いてないんですけどね。」 香奈がチラッと 広部翔太の方を見る。 彼は相変わらず無表情だ。 無表情だとやはり、怖い。 しかしそんな彼の口から 意外な答えが返ってきた。 「別に…いいですけど。」 「マジで!?」 と思わず叫んだのは それまで一言も発さなかった あたしだった。 だってこんないきなりの誘い。 しかも話したこともない 女達からの誘い。 無表情の彼から まさかの了解を得るなんて。 愕然とするあたしに対して 香奈は大きな瞳を さらに大きく輝かせて 「じゃあ決まりっ!!鳴海さんも大丈夫ですよね?」 と、問いかける。 「ああ、全然平気だよ。」 鳴海さんも笑顔で答えた。 「そしたらぁ。幹事は真由がやりますので、よろしく♪」 この流れであたしが幹事なんて 明らかにおかしいよ。
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