闇の残滓

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夕日が遠くに見える。もう夜になろうとしているのだ。 「さ、行くぞ」 エマはマーフィルを見る。彼女はにこりと頷いた。 この時間なら、たいていの者は帰路につく。仕事も終わりなのだ。 すれ違う者達は一定の流れで歩いていく。その流れに逆らい、エマはある場所に向かった。 「どこに行くの?」 手を繋いだマーフィルが訊いてくる。人の波にさらわれないよう、エマは気をつけながら歩いた。 「依頼の情報を見ると、どうやら犯人は、徐々に移動しているみたいなんだ。最初は民家の畑、そこから近い場所の通路で二度目、さらに近い場所にある民家の畑で三度目……この経路から言えば、次は広場だ」 頭の中にガシャナクの全体図を思い浮かべる。マーフィルも同じような事をしたようで、納得している様子だった。 「だから広場に行くんだね」 「ああ。っと、はぐれるなよ」 少し握る手に力を入れる。マーフィルも握り返してきた。にこにこ笑っている。 この少女は守らなければならない。 それはエマがいつも思っている事だったが、この時は特にそう思った。 闇が辺りを支配する。完全な夜。月明かりに照らされた身体は、少し疼く。 (や、やばい……。お兄ちゃんの前なのに……!) マーフィルは焦る。あんな姿、兄には見せたくなかった。 だから、マーフィルは走った。 「マーフィル!どこに行くんだよ!」 「トイレ!察してよ!」 エマの制止を彼女は嘘でごまかす。心がズキリと傷んだ。 やがて広場から少し離れた場所で、マーフィルは倒れた。もう限界だった。 疼く。 どうしようもなく身体が疼く。 これはなんだ。 まるで身体の中になにかがいるようだ。 それが言っている。 出せ、出せと。 「お兄、ちゃん……」 さっきまで一緒にいた兄を想う。心配してくれていた。嬉しかったのに、まともに伝えられない。伝えようとするけれど、疼きが邪魔をする。 「う、あぁ……」 今日もまた、負けてしまうのか。 悔しかった。 だけど、どうする事も出来ない。 分からない。 もう、分からない。 なにがなんだか、ワカラナイ。
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