闇の残滓

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ゆらりと、起き上がる。 その背後に気配を感じた。 『――!』 化け物が、そこにいた。 全身は獣のように毛で覆われ、腰の辺りから一本の大きな角のようなものが生えている。異常に伸びた牙は、獲物を捕らえる為のものか。ギラギラと輝く両眼には、殺気しか感じない。 敵だ。 マーフィルは直感した。 『――!』 意味不明な奇声を発しながら、化け物はこちらに近寄ってくる。月明かりに照らされたその姿は、酷く不気味だった。 敵は倒さなくてはいけない。 いいや。 殺サナイト。 「だっ!!」 マーフィルは一喝する。 両足に魔力を込めて、一気に爆発させた。 化け物に向かって。 『――!!』 化け物がなにかを叫ぶが、意味は分からない。 だから、関係ない。 「強化!」 系統魔術、強化で拳を殺人拳に。 「喰らえ!」 咆哮と共に、それを放つ。 しかし、化け物はいとも簡単に避けた。 「ちっ!」 そのまま魔力の爆発を続け、化け物を通り過ぎる。 くるりと回って爆発を止め、地に着地。 敵を見据える。 『――!』 化け物はまたなにかを叫んでいる。 だが、やはり分からない。 だから、関係ナイ――。 「やめろ、マーフィル!」 そう言っても、マーフィルは聞かなかった。 さっき殴り掛かってきた時もそうだったが、エマをエマと分かっていない。だから殺す気なのも頷ける。 (正気じゃない、か) エマは顔をしかめた。知っているからだ。 (闇の臭い……) 今、マーフィルを襲う衝動がなんなのかを、エマは知っているのだ。 マーフィルもエマも、一週間前、化け物になっていた。いや、正確には、身体に化け物をかっていたのだ。それを表に出した。そのせいで死にかけたが、とある魔術使に助けてもらい、しかも化け物を切り離してもらった。 なのに、だ。 マーフィルからは、あの時の臭いがする。 あの、化け物になって暴れていた時の、闇の臭いが。 「化け物め……。倒してやる!」 マーフィルが次の動作に入る。 「具現化!」 手から鋭い爪が生えてきた。系統魔術、具現化である。己の描いたイメージを具現化するのだ。 本気でやらねば殺される。 だから、仕方なくエマは、剣を抜き放った。
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