凌霄花の章

5/21
前へ
/23ページ
次へ
 沈黙を守る緋月にあきらめたのか、女将はそれだけ言うと、ため息混じりに部屋を出て行った。 「・・・でもね、どうせここから逃れることはできないんだ。上に上がればあがるほど、借金は重なっていく。ここで暮らす限り、減ることはない・・・。どうせ増える借金ならば、返す必要もない。」  女将が出て行った後、緋月がそっと息をついた。  それに、緋月には、ほかの遊女たちと違い、帰る場所を持たない。身請けされ、見知らぬ世界で生きていくよりも、生まれ育ったこの吉原で骨となることのほうが、どれだけ幸せなことか・・・。  遊女は、ここにいてこそ華。外に出てしまえば、色も香りも失う・・・。華のない遊女など、見る影もない。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1061人が本棚に入れています
本棚に追加