2人が本棚に入れています
本棚に追加
お屋敷の中は、シーツお化けの知らない世界が広がっていました。
廊下は、シーツお化けのベットよりもふかふかの絨毯。
そして何より、用意された甘い香りが、キラキラした部屋に立ちこめているのです。
「さあさあ、他のお化けや魔女達に邪魔をされない内にお食べなさい」
おじいさんはシーツお化けを、少々不釣り合いな大きい椅子に座らせて笑います。
「…みんなが…Mr.リートンから貰っちゃダメって」
おじいさんは隣街のお医者様、Dr.リートン。
ハロウィンの日だけ、この街に訪れるおじいさんには、物を貰ってはいけないという約束です。
「…私にはね、待っている人が居るんだよ」
おじいさんは悲しそうに眉を下げて言うのです。
「だが、今年も会えそうにない」
シーツお化けの頭を撫でるおじいさんの手はとても大きくて暖かくて、そして淋しい。
シーツお化けは、その手を振り解くように身を乗り出して目の前のお菓子に手を伸ばします。
シーツお化けは、誰も自分を待ってくれることのないハロウィンが大嫌いでした。
けれどおじいさんは、待っているのに誰も来てくれないハロウィンを、いつでも待っているのです。
シーツの下で、隠れるように食べたケーキもクッキーも、少ししょっぱい気がしたハロウィンでした。
最初のコメントを投稿しよう!