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「私(わたくし)は、貴女様がそちらの宝石をご注文された店の者です。」
「え…?そんなはずないわ。だって、彼とは幼なじみですし、とにかく、買っただなんてそんな不埒な事するはずがないわ!」
憤慨する私をよそに、男は依然として不敵な笑みを浮かべたまま、そこに立っていました。
「不埒な事、ですか…。貴女様は、あの方と出逢った時の事を覚えていらっしゃらないでしょう。私は、貴女様に頼まれまして、今日この日に伺うように申されたのです。」
「なんのために?」
「思い出していただくためでございます。」
「思い出すためですって?」
私は男の話が理解できませんでした。
頭の中は混乱に混乱を呼び、しかし次の男の台詞に、私の頭はついに壊れたかと思ったのです。
「私がお客様に林檎をお売りしたのはちょうど3ヶ月前でございます。」
突然切り出した男の話に、違和感を感じました。
林檎?
「貴方、宝石商じゃないの?」
「はい。林檎売りにございます。」
脚の長い男は、姿勢を整えると、片手をまわして役者のするような挨拶をしました。
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