あなたは犬を捨てにいく

8/8
前へ
/74ページ
次へ
いつも、アイツと走る時はこんな夕焼け空の中だった。 嬉しそうに、嬉しそうに自転車のカゴの中おとなしくしながら、アイツは俺と走っていた。 ーーーそうか…。 アイツは、この空の中、自転車の風を楽しんでいたんだ。 俺と、自転車に乗る一時が、一番の幸福だったんだ。 捨てられに行く、この瞬間が、 俺といる、この中が、 アイツにとって、アイツの生きる意味だったんだ。 「……。」 ダンボールの中に、アイツの姿はなかった。 空になったダンボール箱だけが、河原に静かに横たわっていた。 俺は、それ以上アイツを探すことなく、 自転車のペダルを漕いだ。 俺の影は、黒く、周りの赤に溶け込んでいく。 それからというもの、俺の玄関先に、白い犬が現れることはなかった…ーーー。 .
/74ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加