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いつも、アイツと走る時はこんな夕焼け空の中だった。
嬉しそうに、嬉しそうに自転車のカゴの中おとなしくしながら、アイツは俺と走っていた。
ーーーそうか…。
アイツは、この空の中、自転車の風を楽しんでいたんだ。
俺と、自転車に乗る一時が、一番の幸福だったんだ。
捨てられに行く、この瞬間が、
俺といる、この中が、
アイツにとって、アイツの生きる意味だったんだ。
「……。」
ダンボールの中に、アイツの姿はなかった。
空になったダンボール箱だけが、河原に静かに横たわっていた。
俺は、それ以上アイツを探すことなく、
自転車のペダルを漕いだ。
俺の影は、黒く、周りの赤に溶け込んでいく。
それからというもの、俺の玄関先に、白い犬が現れることはなかった…ーーー。
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