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「…………参った」
ホテルの部屋の入り口でニノミヤは頭を掻いていた。
自分の間抜けさに驚くばかり、アホを絵に描いた様な自分に笑うしかなかった。
「アナスタシア、いるなら出てこい。チョコレートを買ってきたぞ」
無駄だとわかっていながらも聞いてみる。
しんと静まりかえった部屋から返事が返ってくる事は無かった。
シャワーでも浴びてんのか?
馬鹿か俺は。
「……おいおい」
靴があるぞ、間抜け共め。
裸足の彼女にハワイで買ってやった白い靴は綺麗に揃えてあった。
コートもそのまま。
「…………」
外出を装うのも忘れるような間抜け共に良いように鼻を明かされた訳だ。
見ての通り手際が悪い。
ルナ・ツヴァイという大きなターゲットに下っぱを向かわせるはずは無い。
当然、自分との戦闘を想定した殺人上等のそれなりの手練れを送ってくるはずだった。
日本から逃げる途中の戦艦【マクシミリアン】で返り討ちにした“本物”のアナスタシア・ステッセルと同等以上でなければ二の舞になるからだ。
そう考えるとウォーロック社の線は薄れる。
「グラハムじゃないとすると……」
ニノミヤの脳裏に、ふと“あの女”の顔が過る。なるほど。
亡霊め。
あの女なら月軍の一部隊を勝手に動かせる。
手際が悪いのは月軍のボンクラの仕業だからだ。
「レイチュル・エルスマン……」
大体の居場所はわかるが、アナスタシアはもうカナダの宇宙基地に移送されたに違いない。
ニノミヤは溜め息をついた。
このまま黙ってる訳にもいかないが、軍とまともにやり合うのも気が進まない。
「……共同戦線といくかね。京一よ」
ニノミヤは窓の外を見やった。
遠くに見える自由の女神は嫌味な微笑を浮かべている。
「ここもそろそろ危ねーしな」
いつのまにか日は落ちて、空には不気味な“赤い”月が出ていた。
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