東京、赤きに沈む

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「何なのよ、これは……」 眼下に広がる光景に滝沢は言葉を詰まらせた。 まばゆいネオンも、猥雑な人混みも無い。 火事らしい火事すら起きていない。 ただ、炭化し損なった一部の有機物がチロチロと悲しげに燃えて闇夜をぼんやりと照らすのみ。 測定不能の超高温。 爆弾か光学兵器の類いか、いずれにせよ“それ”は、この空間を完全に“消して”しまった。 “野次馬めぐみ”の野次馬根性も、今回ばかりは自粛すべきだったと反省を促す。 「地獄でも……まだ楽しい所なんでしょうね」 滝沢は隣の荒木に聞こえる大きさで呟いた。 「はい。少なくとも、もう少し賑やかな場所でしょう」 ここが帝都東京である事など忘れてしまうかのような静けさだ。 何度も上空を巡洋艦で航行した事はあるが、以前は特殊強化ガラスを突き抜けてくるような、迫るような騒がしい雰囲気が東京にはあった。 だが、今はそれが無い。 (死んでしまったんだわ) 港区は死んだ。 滝沢はそう解釈した。 そして、同時に胸の奥から沸々と沸き上がってきた怒りに滝沢は胸を激しく焼かれる。 「一体どこの馬鹿がこんな酷い事を!!」 そばにあった荒木の軍帽を床に叩きつけ、滝沢は感情を顕わにした。
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