東京、赤きに沈む

11/25
前へ
/803ページ
次へ
「荒木! 今すぐ救助隊を編成して。生存者を探すのよ!!」 滝沢によって理不尽に投げ捨てられた軍帽を拾って被り直し、荒木は彼女を諫めた。 「無理です! この区域の現在の気温は百度をオーバーしているんです。特別な装備が無ければ艦を出る事もできません!」 訓練帰りの試作艦に、山火事の救助活動ができるような装備はない。 区域一番乗りにもかかわらず、何も出来ない自分を滝沢は歯痒く思った。 しんと静まりかえったブリッジで、誰が声を出す事も無く時間が過ぎようとしていた時。 〈艦長、【WT】を使いましょう〉 どんよりとした空気を裂くようにブリッジに響いた声があった。 〈WTなら灼熱地獄でも行動可能です〉 格納庫からの通信は、【星風】WT部隊隊長狩野京一からのものだった。 既にWTの起動確認を始めている彼は、滝沢の返答を知っているという様子である。 「行ってくれるのかしら、狩野大尉」 〈ご命令とあらば〉 【二足歩行式戦車】、【WT(WalkingTank)】とも呼ばれる人型兵器は、十年程前に兵器産業ウォーロック社の科学者、カーネル・アンダーソンによって、それまで馬鹿にされていた二足歩行兵器の優位性が示された事から急速に世界各国で普及した。
/803ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2237人が本棚に入れています
本棚に追加