東京、赤きに沈む

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今や世界有数の軍事大国、大日本皇国でも、陸海空にWTが大量に配備されている。 米国産(ウォーロック社)に頼っていたWTも、近年国産化が進み、カシワ重工の開発した【夕立】や【闘魚】らは世界屈指の機体性能を誇る。 この【星風】にも、最新鋭の第五世代機【夕立】が一個小隊分、三機が搭載されている。 小隊を率いるのが、この狩野京一大尉なのだ。 「WT隊は出撃準備を急いで、総員第一戦闘配備。対空警戒を厳と為せ」 艦長席に座るのを合図に各員が素早く散っていく。 群馬の山中での訓練も無駄にはならなかったと納得し、滝沢は一人、“あの事件”の事を思い出していた。 三年前、【月面都市連合国】の国務大臣であったレイチュル・エルスマンが、エネルギー援助の交渉の為に訪れた国際連合のニューヨーク本部の前で爆殺された事件だ。 あれは、今でも滝沢の脳裏に焼き付いて離れない。 彼女の乗る政府公用車が、国連本部の門に入る直前に大爆発したのだ。 あれには世界が衝撃を受けた。 アメリカはイスラムの某テロ組織やら某反月活動家、果てはロシアの某マフィアまでが槍玉に上げたが、誰が見ても【某】アメリカの組織の仕業であるのは明らかだった。 月へのエネルギー支援を巡るアメリカの反対理由は粗末と言わざるを得ない程に幼稚な物だったが、世界一の国が「黒と言えば黒」「米と言えば月も米」なのだ。 強硬路線と、支持を強めていた【月面都市連合国】の代表が爆炎に飲まれたのも、当然と言えば当然だったのかもしれない。 なぜこんな話を思い出したのかは定かではない。が、あれから地球と月との関係の悪化が決定的となったのは間違いない。 「【月】……」 滝沢は誰にも聞こえないように呟いた。 陛下から賜った金時計は一月一日、○一○五を指していた。
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