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「……ふぅ」
小さく吐息を洩らし、少女が寝返りをうった。
「……あわわっ」
彼女が目を覚ました時、この距離はまずい。
幸人は距離を取ろうと身体を動かしたが、直後に下半身から脳天にかけてをぶち抜いた激痛に悲鳴を上げた。
見ると、幸人の下半身はコンクリートの瓦礫の下敷きになっていた。
幸い、潰されているという訳ではなく挟まれているというのに近く、無理に身体を動かさなければ痛みは無い。
なんで?
幸人は自問した。
そもそも、どうしてこんな所で寝ているのだろう。
覚えているのは瞼の裏に焼き付いた真っ赤な一筋の光。
赤い光……
そうだ。赤い光だ。東京タワーが赤い光に包まれて、それで何もわからなくなった。
この娘と一緒に。
傍らで寝息を立てているこの少女。
雪を見て、白くないと言った娘だ。
「オーイ、大丈夫か?起きろ」
肩を揺すると、彼女は「うん……」と息を洩らし、身体を伸ばした。
寝起きの少女の動作が色っぽいと思うのは除夜の鐘を聞かずに新年を迎えてしまった故か。
しなやかな動きで伸ばした身体を戻し、一息ついた彼女の両目が突然パチっと開かれ、幸人は理由も無くどぎまぎ。
顔を染める幸人を見て、まだ眠そうに目を擦った彼女は、にっこりと笑って当たり前のようにこぼしていた。
「………ユキト……」
一陣の風が、幸人の頬を撫でたようだった。
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