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「君、なんか知ってるの?」
思い詰めた顔の彼女に、幸人は問うた。
やけによく知っている。
「……よくわからない。なんか、ちゃんと覚えてないの……」
「?」
「どうして、知っているのか」
ちょこんと座って、どこか遠くを見つめながら、彼女は記憶を一つ一つ整理しているようだ。
「どうしてこのトーキョーにいたのかもよくわかってないの。気が付いたらトーキョーの街を歩いてた」
とても納得がいく話ではなかった。
彼女は訳もわからずに月から日本皇国の帝都東京にやってきたというのか。
そしてなぜ、そんな忘れっぽい彼女が、自分の名前を知っているのだろう。
ユキト
確かにそう言った。
だが、面識は無いはずだ。
月からの留学生とはいくらか交流があるが、名前を教え合う程に仲を深めた覚えはない。
幸人は思い切って聞いてみた。
「ねえ。俺の名前、なんで知ってるの?」
「え? あれっ、もしかして知り合いだったりするの?」
きょとんとした顔が返ってきたのはそれからすぐあとで、尋ねた幸人も聞かれた彼女も、しばらくぽかんと見つめ合った。
「え」
「え?」
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