滅び の 微笑

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赤い夕暮れに照らされて、アキの蒼い瞳は更に綺麗に輝いていた。 「イタタ……」 「アキ!」 頬を擦りながらアキは笑った。 「あはは。ひっぱたかれちゃったよ」 「ごめん。俺、何にも出来なかった……守ってやれなかった」 「?」 頬を擦る右手に新しいアザを見つけてしまい、幸人の胸は更に痛んだ。 「あの人が助けてくれなかったら、アキは……アキは……」 「……私は?」 「うっ」 そんな事面と向かって言える訳ない。 何故なら、あのままならアキは……言えない。 「あはは……冗談よ。困らせてみたかっただけ」 「ア、アキ!」 笑うアキに戸惑う自分。 アキは本当に心から笑っているのだろうか。 心の奥では頼りない自分に失望してはいないだろうか。 乱暴されかけた恐怖に駆られ、本当は泣きたいのではないか。 この笑顔が嘘をついているとは思わないけれど、やはり怖かった。 「幸人」 口元に微笑を浮かべながらアキは言う。 「幸人は私を助けてくれたじゃない」 「えっ?」 真意を測りかねて、アキのサファイアのように蒼い瞳を見る。 「私を引っ張り出してくれた。私を連れ出してくれた」 「な、何から?」 アキは自分の胸に手を当て、何かを思い出すように遠くを見る。 すれ違う車はヘッドライトを点灯させている車も目立ち始めた。 ビルの間から自由の女神が覗き、包み込む様な微笑を幸人達に向けてきていた。 「悲しい“月”の檻から出してくれたのは、幸人だよ。ありがと」 全く意味がわからず、ポカンとしている幸人を放っておいて、アキは前の運転席まで身体を乗り出し、ここのところよく懐いているひばりに抱きついた。 「む!?目が覚めたのか」 「はい!」 「何事も無かったようで安心した」 ひばりと、何故か落ち込んだ様子の狩野に笑顔を向けるアキはいつもの元気を取り戻していた。 「“月の檻”……?」
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