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「で?ナニをされたの?」
「艦長、グーで殴りますよ!」
「ナニもされてません」
「アキ!」
再びエリア0の地下に帰った幸人達を出迎えたのは滝沢達だった。
滝沢のいきなりの結構洒落にならない下ネタにドキモを抜かれ、悪ノリしたアキに肝を潰されて男性陣はあたふたするだけだった。
「京一、私はナニをされても構わんが?」
「黙れ」
迫るひばりを押し退けて、狩野は滝沢に事の子細を報告していた。
もう気持ち半分で聞いている様子の滝沢と、それを知ってか知らずか律儀に説明する狩野。
そしてまたも放置された事で嬉しさの余り血圧を上げるひばり。
その様子を、すっかり蚊帳の外である幸人とアキは並んで見ていた。
「なんだか……星風って感じ」
アキが嬉しそうに微笑む。
「ああ」
アキの横顔を見て、幸人は心底安心した。
傷ついていない事は絶対にない、絶対に。
自分が置かれていた立場を考えれば。
ただ、無理にでも笑っていて欲しいとも幸人は身勝手ながら思う。
笑顔が一番アキには似合うと断言できる自信が自分にはある。
泣いて涙で瞳を輝かせているアキも本当の事を言うと可愛いと思うが、それはやはり違う。
この笑顔が、幸人に根拠の無い凄まじい力を与えてくれる事はよくわかっている。
特にWTに乗っている時の身体に起こる変化は圧倒的だ。
身体が灼熱のように熱くなり、粟立った全身が身震いする度に内臓か脈打ち、脳ミソから滲み出る何かが精神を刃物のように研ぎ澄ます。
たまに思う事がある。
アキは何か特別な力を持っていて、それが自分になんらかの好影響を与えているのではないか、と。
“なんとなく”だが……。
「戻るわよ。一応、私達軟禁状態みたいなものなんだから」
いつのまにか話を終えた滝沢らがフロアの入り口に立っていた。
戦艦が収まる、東京ドームにも匹敵するフロアに星風は待機している。
アメリカ合衆国のスケールには舌を巻くばかりだ。
「はい!今行きます!」
そう返事をしたアキの後ろにつき、幸人はその後ろ姿を見て、今はそんな事はどうでもいいと思った。
事態は関係者達の意図とは無関係に進んでいるというのに。
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