東京、赤きに沈む

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「一体全体、何がどうなっているんだ!!」 日本空軍首都防衛師団の司令・大隅義一郎中将は当番の兵士に噛み付いた。 自室で妻と息子の位牌に向かって静かに年を越した時に、重大事件発生の知らせが入ったのだ。 その上、まだ詳細不明と来れば、この老将とて虫の居どころが悪くなる。 「現在調査中ですが情報が錯綜しており、正確な情報はまだ……」 続々と司令室に通信兵が集まってくる。 「ぐずぐずするな!」と喝を入れ、大隅はすでに独自の思考を巡らせていた。 日本に対して何かやらかすとすれば内政ボロボロの南北朝鮮連邦しかないが、しかし朝鮮には去年“目にモノ”を見せてやったばかり。 リベンジには期間が短すぎる。 「将軍、御覧下さい」 傍らの青年兵が深刻そうな顔で画面から顔を離さず大隅を呼ぶ。 「写真はまだなんですが、……これなんだと思います……?」 大隅は我が目を疑った。 それは、気象衛星から送られてきたサーモグラフィー。 地上の温度をグラフ化して立体的に地図にした代物だ。 「港区はどこにいった……?」 東京都港区がCG画像からスッポリと消えている。 周りはマイナス二度℃から一度℃の山がでこぼこしているにもかかわらず、港区の東京タワーを中心に半径二十キロメートルが円状に“消失”していた。 「気温が衛星の測定可能最低温度であるマイナス二十度℃以下になったという事か……?」 若い通信兵は生唾を飲み込んで大隅の顔を見た。 唇がワナワナと震えていた。 大隅も認めたくない、それをこの若者は完全に言い当てた。 「むしろ逆かと……」
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