東京、赤きに沈む

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『先にそうなったのはお前だろう』 大隅は用意していた質問を投げ掛けた。 自分と違い教養と理知に富んでいた息子なら、この無恥で幼稚な反論も返す刀で両断してくれると期待しての事だ。 だが、息子は悲しそうに目を逸らして「確かに」と小さく呟いただけだった。 『私は貴方の妄想に過ぎないのだから。貴方は私を否定する事で自分を否定しているんです』 ずいと近寄り、息子の顔が視界いっぱいに広がる。 『私は貴方だ』 「もういい」 半狂乱になった頭を叩くように大隅は遮った。 『そうやって貴方は私から、自分から、この世から目を背けるのですか』 「もう消えろ、亡霊」 今回もこうなった。 十五年間毎日隙あれば息子は現れ、自分を貶し、そして自分の吐き付けたお決まりの言葉を聞いて、満足そうに帰っていくのだ。 もうやめてくれ。勇一 大隅は疲れ果てて、司令席に座り込んだ。 「……中将」 うとうとしていたのだろうか、繰り返し自分を呼ぶ声に大隅は正気を取り戻した。 「中将、ご命令を」 不思議そうに顔を覗き込む下士官の表情からして、どうやらあの夢は数秒の時間も要していなかったと見える。 大隅は素早く大隅義一郎中将の顔を造ると、声を励まして指示を出した。 「東京近辺の部隊を東京に集結させろ。航空戦艦の都内上空の飛行も認める。全部隊に対艦戦闘を用意させろ。場合によっては戦争になる!」 下士官達の表情が石のように強ばり、各方面に散っていく。 大隅は出来るだけ早く、息子の顔を忘れようとした。
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