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「ごめんなさい、随分と待たせてしまいましたか?」
どこか申し訳なさそうに言いながら近づいてくる彼女――谷橋香苗に、ひよりは緩く首を横に振る。
再度窓の外へと視線を向けたひよりに続くように、彼女も横に並ぶように移動すると降り止まない雨の音だけが教室内を支配した。
「もう用事はすんだの?香苗。」
未だ外から視線を外さないままにひよりは問う。
ゆっくりと空気が揺れる感覚と、あいていた左手に絡む少しだけ体温の高い香苗の温度を感じた。
「終わりました。ひよりは、ずっと一人でここにいたんですか?」
先に帰っていても良かったのに。
そういう意味合いを含んだような言葉に、ひよりはグッと絡まった指先に力を込めた。
「一人で帰る方がイヤだから・・・・・・一人より・・・っ・・・・・・独りになる方がイヤだから・・・」
「・・・ひより・・・」
微かに涙の混じった声色に、はっとしたように顔を上げた香苗はひよりの少し背が高い体をそっと引き寄せた。
途端、ぎゅうっと回された腕にグッと息が詰まりそうなほど苦しくなったが振り解く事はできなかった。
小さく震える体、微かに漏れる嗚咽まじりの泣き声、回された腕は、迷子になった子供が必死に縋り付いてくるような弱々しさを感じさせた。
肩先に顔を埋めたひよりの長い髪の毛を、さらりと梳くように何度もなでる。
自分の好き勝手に飛び跳ねるくせっ毛とは違う綺麗な髪を、香苗はなでるのが好きだった。
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