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秋の色は、深紅に近い。
眼下に広がる歩道には、真っ赤な紅葉が幾重にも重なり、埋め尽くし、被さるように紅い絨毯が敷かれている。街中を縫うように植えられた街路樹もすっかり紅く染まり、街全体が紅の世界に身を浸していた。
だだっ広い空間を吹き抜ける風は肌寒く、露出した僕の肌を震えるまでに凍り付けてゆく。いやしかし、この震えは寒さに凍えて引き起こされたものだろうか。それとも、これから起こるであろう恐怖に怯えているのが原因か。
秋の色は、鮮血の色に近い。
もし、道に敷かれた紅い絨毯の上に血が飛び散ったとしても、紅葉(こうよう)した黄色の葉を血が赤く染め上げようとも、果たして誰かが気付くであろうか。紅い世界の一部が赤く染まったところで、それに気付き、気にとめる者は誰もいない。何の問題もありゃしない。
ビルの屋上を駆け抜ける秋風は、身体中の熱という熱を奪ってゆく。肌の神経を刺激して、僕の脳に寒いという信号を送るだけではないか。しかし、それがどうした。どうせ冷たくなる身だ。今から僕の身体を凍えさせても、良いことなんてある訳ないだろ。
秋の色は、美しい。
身体中を突き抜ける感覚を味わう程、鋭利な風がビュウビュウと耳元で唸る。足、手、胴体、頭、全ての部位に込められていた力を抜き、何もかもを委ねる。
眼下に敷かれた絨毯が、だんだんと近付いてくる。
山際から顔を出した夕日は、より一層世界を紅く染める。その光景を僕はしかと目に焼き付けた。
僕はこの世界と一つになろう。
この世界を赤く染めよう。
大丈夫。何も心配はいらないさ。だって、誰も僕に気付きやしないから。誰も僕を気にもとめないから。
そうさ。僕は世界に隔離されたから、僕は世界と一つになるんだ。
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