死ぬ時は一緒だよ

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 トーストとコーヒーという余りにも王道的過ぎるシンプルな朝食を、君の所に持って行った時のことさ。僕の気持ちは高揚して、ウキウキルンルンでリズムを刻みながら階段を下り、君が居る筈の所へとスキップして向かったんだ。  ところがどうだい? 居る筈の所に、君はいないんだ。見事に君は消えていたんだ。最初はタチの悪いジョークかと思ったよ。「おおーい、隠れてないで出ておいで」なんて陽気な声で君の反応を煽(あお)ったさ。でもね、君は何処にもいないんだ。綺麗さっぱり消えているんだ。僕は扉の鍵を開けて、中の隅々まで見渡したけれど、やっぱり何処にもいないんだ。逃げ道なんて無い筈なのに、君は何処かに逃げてしまったみたいだ。一種のマジックかと思ったよ。ああ。僕は勿論たまげたさ。目を大きく見開いて、顔は真っ青に変色したよ。そして、僕は焦りに焦ったんだ。  地上へ続く階段を上り、だんだんと強くなる外の光に顔をしかめるも尚、僕は足を緩める事はしなかったよ。「おい! 戻っておいで! 何処に行ったんだよ、君ナシでは生きていけないよ!」狂ったように叫びまくったんだ。  此処はまるで無人島なんだ。樹海の奥の奥。森の海に浮かぶ、少し平地が顔を見せた、小さな小さな孤島なんだよ。何を言いたいかって言うとね、つまり君は逃げ切れる筈が無いんだよ。野垂れ死ぬのがオチなのさ。そんな逃亡なんて無謀なのに、何故君はそんな選択をしてしまったんだ。僕は君にそんな事して欲しくは無いのに。さっきも言ったように、僕は君ナシでは生きていけないからね。  僕はどんどん森の奥へと入って行ったよ。森の奥に行くに連れ、背中に見える僕と君だけの、ずっと愛を育んでゆく家がどんどん小さくなる事なんてお構いなしに。遂には見えなくなるまで、僕は樹海の奥まで来てしまったよ。「何処にいるんだい? 早く出てきておくれ? じゃないと、僕は死んでしまいそうなんだ」悲痛にも似た発狂は、不気味な闇の中へと呑まれていくんだ。こんな所じゃ、僕の声は響かないみたい。でも、僕は君を探さなきゃ。次は逃げられないように、鎖で縛り付けて家の地下にある檻の中に繋いでおかなくちゃ。
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